2018年10月18日木曜日

ブレーキバランス

スポーツモードでは一部を除いたほとんどのレースでセッティング禁止のレギュレーションとされているが、それでもブレーキバランスについてはMFD内の項目として存在するため、例外的に調整が可能となっている。
本稿では、セッティングの第一歩として、まずはそのブレーキバランスについて解説する。

ブレーキバランスとは
そもそもブレーキバランスとは、ブレーキバイアスなどとも呼ばれ、前後のブレーキ圧力の配分のことを指す。
GTSでは「-5(最もフロントが強い)」から「0」を挟んで「5(最もリアが強い)」の11段階に調整が可能である。
初期設定の「0」では各車種ごとに合わせて標準的な配分になっており、そこから状況や好みに応じて微調整する。



何に合わせて調整すべきか
まず、最大の制動力を得るためには、フルブレーキング時の前後のグリップレベルに合ったブレーキバランスにすることが必要だ。とはいえそれを気にしなければならないのはABSをオフにしている場合で、ABSがある場合は自動的に4輪それぞれの圧力を制御してくれるので、どのような値でも最大の制動力を発揮できる。

最も大きく変化するのは、コーナー進入時にブレーキを緩めながらターンインしてゆく時の挙動だ。ブレーキを緩めるとABSの制御も弱まり、ターンインによって横Gも加わるため、ブレーキバランスがアンダーステアやオーバーステアといった挙動に影響を及ぼすようになる。
基本的には、そのターンイン時の挙動を微調整するのがブレーキバランスのセッティング、と考えてよい。

また、タイヤ消耗の設定があるレースでは、ブレーキバランスによって前後のタイヤの摩耗の差をわずかに補正することも可能である。

フロント寄りでアンダー、リア寄りでオーバー・・・とは限らない
普通に考えれば、フロント寄り(フロントが強い)のセッティングにすれば、フロントタイヤのグリップ消費が多くなってアンダーステア気味に、リア寄りならその逆でオーバーステア気味に・・・となるし、一般的にもそのように解説される。
しかし、「リア寄りにしたのにアンダーが出る」とか「フロント寄りの方がよく曲がる」と感じたことのあるプレイヤーもいるだろう。
なぜそのような現象が起こるのか?そのヒントは、コーナリング中の車両の姿勢にある。

教習所などではよく旋回時の「内輪差」について教わる。内輪差が発生すると前輪よりも後輪の方が内側を通るが、サーキットにおける限界域でのコーナリングでは逆に後輪は前輪の外側を通る。
これは、タイヤが転がりながら大きな横方向の負荷を受けると接地面が"ねじれて"大きなスリップアングルが発生し、操舵をしていないリアタイヤが外側に向かおうとすることと、サーキットのコーナーが街中の交差点に比べるととても緩やかで内輪差が発生しにくいためだ。

富士のダンロップコーナーへのアプローチ。画像を拡大してみると、前輪より後輪の方が外側を通っていることがわかる

このとき、車両は進行方向に対してやや内側を向きながら(ほんのわずかにドリフトしているようなイメージ)走行している。この状態でブレーキをかけると、各タイヤには「進行方向と逆向きに」力が加わるので、フロントの制動力と(車両重心に加わる)慣性力がオーバーステア方向の、リアの制動力と慣性力がアンダーステア方向のモーメントをそれぞれ生み出す。
このため、フロントブレーキが強いと曲がりやすかったり、リアブレーキが強いとアンダーステアが出るといったことが起こるのである。

緑の矢印がフロントとリアそれぞれの制動力、黄色の矢印がそれらによって生じる慣性力(減速G)を表す。フロントかリアどちらかの制動力に注目すると、慣性力と合わさった時に車両を回転させようとする力が発生することがわかる

FF車のアクセルオフによるオーバーステア、俗に言うタックインも同様の原理で、フロントだけにエンジンブレーキがかかることによってオーバーステア方向のモーメントが発生し引き起こされる(GTSではあまり体験できないが・・・)。
またドリフト走行中にサイドブレーキを引くとドリフトが戻ってしまうことがあるのも、タイヤロックが若干遅いために一瞬強力なリアブレーキがかかったのと同じ状態になることで、アンダーステア方向のモーメントが発生するのが原因だ。

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この「制動力によるモーメント」は、弱めのブレーキをかけているとき、つまりはコーナーの奥の方で少しだけブレーキを残しているときに発生しやすい。対してグリップ消費による挙動変化は強めにブレーキをかけているときに出やすくなる。

よって、高速コーナー等の、強めのブレーキをかけているターンインからしっかり向きを変えていきたいときはリア寄りのブレーキバランスに、逆に低速コーナー等で、コーナーの奥側でコンパクトに曲がりたい場合はフロント寄りのブレーキバランスにするとよいということがいえる。
ただし、リア寄りのブレーキバランスにするとブレーキを強めに踏んでいるときはオーバーステアだが弱めると急にアンダーステアが出たりと、挙動の変化が激しくなり扱いづらくなる。フロント寄りのブレーキバランスでは挙動の変化は穏やかだが、もともとクルマをうまく曲げることのできるプレイヤーでなければ恩恵を受けることは難しい。

クルマによって挙動変化の傾向も異なるので、まずは初期状態の0でしっかり走り込み、どこがどう曲がりにくいのかを見極めてから、色々な値を試してみるとよいだろう。

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